これまでのIT技術とAIの特性について考える

経営者のDX思考として、前回までに当社が経験してきたDXの失敗事例をご紹介し、DX失敗の根本的な原因が組織構造にあることを示し、組織構造の変革は企業文化の変革であることから非常に困難であることを論じてきました。

その一方で、社内コミュニティの立ち上げとNPOの活動をご紹介し、情報の流れを変えることや人・情報・組織のつながりにおいて欠落しているつながりを構築することが、構造の変革のきっかけになることを述べてきました。

国内では、10年ほど前からDXというキーワードを旗印にITの活用を推進することで組織や事業の改革が推進されてきていますが、ITシステムに関するトレンドとしては、数年前から生成AIが登場し、その活用が急速に進展してきています。

AIは、IT技術の一部ではありますが、これまでのIT技術と比較すると、明らかに特性が異なる技術だと考えられます。

ここ数十年を振り返ると、ITを活用してきた企業と、そうでない企業の差は、大きな経営上の差として表れてきました。

AIの特性がこれまでのIT技術と明らかに異なるとすると、その特性を正しく認知してAIに向き合わないと、より大きな経営上の差が生まれてしまう気がしてなりません。

そこで今回は、AIの特性について、これまでのIT技術と何が異なるかを考え、AIへの向き合い方について論じたいと思います。

従来のIT化の効果は効率化

まず、従来のIT化の効果について考えてみます。

従来のIT化の効果を一言で言うと業務の効率化です。

これまで人が時間をかけて行っていた作業を、システムによって速く、正確に、漏れなく処理できるようにする。
これが、IT化によって得られる最も分かりやすい効果でした。

例えば、請求書の発行作業を考えてみます。

これまで手作業で金額を確認し、Excelで請求書を作り、印刷して郵送していた業務を、システム化によって自動発行できるようにする。
この場合、ITは人手による作業時間を減らし、ミスを減らし、同じ人数で処理できる量を増やします。

受発注管理でも同じです。

電話で受けた注文を紙に書き、担当者が在庫を確認し、別の担当者が出荷指示を出す。
こうした業務をシステム化することによって、注文、在庫、出荷の情報がつながり、確認作業の時間が大きく減り、ミスも減ります。

つまり従来のIT化は、効率化によって時間を生み出します。

それまで一時間かかっていた作業が十分で終わる。
毎月一日かかっていた集計が数分で終わる。
担当者しか分からなかった情報が組織全体で見えるようになる。

ITによる効率化によって生まれた時間を、営業活動、顧客対応、改善活動に使い、企業は少しずつ経営を強化してきました。

AIの効果は能力拡張である

一方で、AIの効果は従来のIT化とは異なります。

AIも結果的に業務時間を短くすることはありますが、それがAIの中心的な効果として捉えると、少し見誤るように思います。

AIの本当の価値は、人や組織の能力を拡張することにあります。

例えば、

知識はある。
経験もある。
顧客のことも分かっている。
しかし、それを創造物として、文章、資料、デザイン、分析、プログラムとして形にする経験や時間がない。

こうした企業は多いのではないでしょうか。

例えば、経営者の頭の中には、自社の強みや顧客の特徴、業界の変化に対する感覚が蓄積されています。
営業担当者も、顧客が何に困っているのか、自社製品をどのように説明すれば伝わるのかを肌感覚で知っています。

しかし、それを事業計画や製品・サービス、LPやパンフレット、提案書、ブログ記事として形にするには、別の能力が必要です。

細かな数字を組み立てる力。
分析する力。
企画する力。
文章を構成する力。
読み手に伝わる順番で整理する力。
デザインとして見せる力。
Webページとして実装する力。
必要に応じてプログラムとして形にする力。

知識はあるのに、外に出せない。
考えはあるのに、資料にならない。
構想はあるのに、システムにならない。

AIは、人や組織に足りない能力を補完し、知識や考え、構想を形にするために越えるべきハードルを下げます。

つまり、AIの効果は、能力の拡張です。

AIは、知識を成果物に変える力を補完する

AIによる能力の拡張について、いくつか具体的に考えてみます。

AIが企業にもたらす能力拡張の一つは、社内にある知識を成果物として表出化しやすくすることです。

例えば、ある会社に商品知識の豊富な担当者がいるとします。
その担当者は、商品の強みも、顧客の悩みも、営業現場でよく聞かれる質問も知っています。

しかし、

LPの構成を作った経験はない。
パンフレットの文章を書くことにも慣れていない。
広告の見出しや、Webサイトの導線を考えるのも得意ではない。

その結果、その担当者の豊富な知識は、外部に伝わる形になっていませんでした。

ところが、AIを使うと、この状況は一変します。

担当者の日常的な話し言葉を基に、

商品の特徴を整理する。
顧客の悩みを言語化する。
LPの構成案を作る。
パンフレットの章立てを考える。
営業資料の見出しを複数出す。
お客様からよく聞かれる質問をFAQにまとめる。

これは、単に制作作業を楽にするという話ではありません。

”知っている人”が、”作れる人”になれるということです。
経験として蓄積されていた知識が、文章や資料として表に出てくるということです。

AIは、人が持っている知識を、成果物に変えるための能力を補完します。

AIは、人が気づかなかった視点を与える

AIは、データ分析の場面でも人や組織の能力を広げます。

これまでのデータ分析では、担当者が知っている切り口で数字を見ることが多くありました。
例えば売上を、

商品別に観る
地域別に観る
担当者別に観る
月別に観る

もちろん、こうした切り口は必要です。
しかし、人間の考えはどうしても慣れた視点に引っ張られます。

ところが、AIにデータを見せると、人が見落としていた可能性のある切り口を示してくれることがあります。

例えば、次のような視点です。

小口顧客が増え対応負荷が大きくなっている
特定の商品群だけ季節による変動が大きい
問い合わせは多いが受注まで進みにくい地域がある
リピート率の高い顧客には共通した購入パターンがある

こうした気づきは、人間でも分析を重ねれば見つけられるかもしれません。
しかし、日々の業務に追われる中で、いつもと違う切り口でデータを観ることは簡単ではありません。

AIは経営判断を代行するわけではありません。
ただし、人間が考えるための視点を増やしてくれます。

これまで観ていなかった角度からデータを眺める。
これもAIによる能力拡張の一つです。

AIは、プログラム開発の入口も広げる

AIは、プログラム開発の領域でも、経験のない人や組織の能力を補完する力を持っています。

これまで、自社で小さな業務システムを作りたいと思っても、プログラムを開発できる人がいなければ難しいのが現実でした。


業務をよく知っている人ほど、何を改善すべきか理解し、課題意識を持っています。

例えば、次のような業務改善です。

・問い合わせ内容を一覧で管理したい
・見積依頼をフォームで受け付けたい
・社内申請をフォームで申請できるようにしたい
・在庫状況を担当者以外でも見られるようにしたい
・Excelデータを自動的に生成する小さなツールを作りたい

こうした改善案は、現場にはよくあります。

しかし、その課題意識や改善案をアプリケーションとして形にするには、別の専門性が必要でした。

IT担当者がいない、外部に依頼するほど予算がない、説明するのが難しいという理由で、改善効果は期待できるものの、そのままになりがちでした。

AIを使えば、業務を知っている人が、改善案をアプリ化できます。
必要な画面、入力項目、処理の流れ、プログラムをAIが生成してくれます。

もちろん、本格的に業務で使うには、セキュリティや保守性の確認が必要です。
専門家の支援が必要な場面もあります。

それでも、以前とは大きく違います。

”こういう仕組みが欲しい”という現場の知識やアイディアを、”こういうアプリなら使える”という段階まで形にすることが出来ます。
これも、AIによる能力拡張の大きな力です。

IT格差よりもAI格差は大きく開く

ここまで、従来のIT化とAIの効果について述べてきました。
では、ここから、IT格差とAI格差について考えてみたいと思います。

ITを活用する企業と、活用しない企業の間には、すでに大きな差が生まれていますが、その差は主に効率化の差です。

作業時間が短くなる。
情報共有が速くなる。
ミスが減る。
確認や集計にかかる時間が減る。

つまりIT格差は、”効率化によって生まれた時間をどう使うか?”によって生まれる格差です。

生まれた時間を単純に労働時間の削減として扱った場合、人件費の削減によって財務的効果は高まるかもしれませんが、財務以外での企業力に差は現れません。

一方で、AI格差は、企業の能力差として現れます。

同じ商品知識を持っていても、AIを使う企業はLP、営業資料、ブログ記事、FAQ、提案書として、知識が形として現れます。
使わない企業は、知識を持っていても、それを成果物として外に出す機会が限られます。

同じ業務課題に気づいていても、AIを使う企業は直ぐにアプリを開発し、業務を改善していきます。
使わない企業は、課題を残したまま事業を進めていきます。

同じデータを持っていても、AIを使う企業は様々な視点から傾向を読み取ろうとします。
使わない企業は、これまでと同じ切り口で数字を見るだけになりがちです。

この様な差は、財務面での差として開くだけでなく、事業展開のスピードや事業の幅、組織力、企業力の差として現れるため、AI格差は、IT格差よりも大きく開くことになります。

この違いは非常に大きく、AIを活用しない企業は、あっという間に時代遅れになるといっても過言ではないはずです。

AI格差は企業の学習力の差になる

さらに重要なことは、AI格差は企業の学習力の差になるという点です。

AIを使う企業は、知識や経験を一度形にして、それを共有し見直しながら組織全体で学んでいきます。

一方で、知識や経験が形に現れていないと共有されず、課題は残り、学習されません。

しかし、文章、資料、分析結果、システムのような形にすると、事業や業務において何が不足しているのかが見えてきます。

例えば、提案書にしてみると、顧客への訴求が弱い部分に気づきます。
データを整理してみると、これまで観ていなかった傾向が見えてきます。
業務をシステム化してみると、業務手順そのものの曖昧さが表出します。

AIは、企業が持っている知識を形にし、見直す機会を増やし、改善することで新たな知識を得て、またそれを形にする。
この繰り返しが、企業の学習力の差になっていきます。

IT格差が作業時間の差だったとすれば、AI格差は学習速度の差と言えます。
この違いは、企業の成長力の差として表れてきます。

問われているのは組織構造を変革できるかである

IT化は、業務を効率化し、時間を生み出しました。
一方で、AIは、人や組織の能力を拡張し、知識や経験を形として表に出す力を持っています。

この違いを理解しないままAIを捉えると、単なる便利ツールとしての活用で終わってしまいます。

AIは、メールを少し楽に書くためだけのものではありません。
議事録を整えるだけのものでもありません。

社内にある知識を文章にする。
顧客理解を提案書にする。
現場の改善案をシステムにする。
データから人が見落としていた視点を得る。

こうした能力拡張の道具として活用するかどうかが重要です。

IT格差は、時間の差として広がりました。
AI格差は、能力の差として広がります。

だからこそ、その差はIT格差よりも大きく表れます。

そして、ここで重要な問いが生まれます。

AIが人や組織の能力を拡張するという事は、人や組織の役割を拡張するという事につながります。

そして、役割が拡張され、変わるという事は、結果として、従来の組織構造に変化が求められるという事になります。

ここで、この連載の記事を思い返してください。

DX成功のキーポイントは、”構造を変革できるか?”という事でした。

同様に、AIの活用を進めると、組織構造の変革が求められてきます。

つまり、DXの成功もAIの活用も”組織の構造を変化させることが出来るか?”が問われているという事です。

”組織構造の変革”これが、これからの企業の差になっていきます。

まとめ:DXやAIの活用・推進に行き詰まりを感じている方へ


この連載で論じてきたように、DXもAIも成功の秘訣はツールやシステムの問題ではなく、構造変革への取り組む姿勢です。

経営や組織を変革する姿勢が無ければDXは進みません。AIの効果も最大限に得ることは出来ません。

DXやAI活用に取り組みたい
取り組もうと検討している
取り組んでいるけれど上手く進まない

など、DXの推進やAIの活用に行き詰まりを感じている方は、ぜひご相談ください。

私たちの経験が、きっと何等かのヒントになるはずです。

初回のご相談は無料です。

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