経営層が会議に出ないDXは、なぜ定着しないのか
― 安定している会社で起きたDXの話 ―
失敗事例から学ぶことは多くあります。
DXに関してもしかり。
「経営者のためのDX思考」の第2回、今回もDX推進に関する私たちの失敗例のご紹介です。
2つ目の失敗例は、ある一次産業の生産法人での出来事です。
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その会社は、特定の地域で大規模な生産を行っている一次産業の会社で、従業員は数十名規模、生産施設内へのネットワーク環境の整備など、設備投資も積極的に行っていました。
年間の出荷量も地域では上位に入る規模で、主要な取引先には全国展開する食品メーカーも含まれます。
取引先とは長期契約が続いており、売上は比較的安定、経営状況として急いで変革しなければならない状況ではありませんでした。
しかし、
人手不足が着実に進む中、
現場での作業効率と生産性を高めなければならない。
そのためにはデータを活用する必要がある。
と、経営層は将来への課題を感じていました。
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現場では多くのデータが生まれていた
その会社の生産現場では、毎日多くのデータが発生します。
例えば次のような情報です。
- 個体ごとの飼育や種付け状況
- 体重などの成長状態
- 与えた飼料の種類や量
こうした情報はしっかりと記録されていましたが、入力や管理方法に問題がありました。
現場の担当者は、作業を終えると事務所へ戻り、業界向けの標準的な業務システムに飼育データを入力します。
利用しているシステムは業界では広く使われており、基本的な生産管理には十分な機能があります。
しかしながら、会社独自のデータを入力する項目がありませんでした。
例えば、
- 独自に試している飼料の配合
- 生育に影響する環境条件
- ロットごとの観察メモ
など、これらの情報は、システムに入力することが出来なかったため、Excelで別に管理されていました。
つまり、
- 標準的なデータは業界標準のシステム
- 会社独自のデータはExcel
と、データが2か所で管理されていました。
加えて、Excelは、セル結合やマクロなどが複雑に使われており、業務システムのデータと結合することは困難な状態でした。
そのため、業務システムとExcelに保存されているデータは、蓄積されているだけで、2次利用や分析などには全く活用されていませんでした。
経営層が考えていたデータ活用と生産効率の向上
この様なシステムや業務の状況において、経営層は次の様な構想を持っていました。
現場で様々な情報をタブレット端末で入力ができればどうだろう。
業界標準のシステムではなく、Excel管理も廃止し独自のシステムにすればデータを一か所に集めることができる。
そうすれば生産効率を高めるための分析もできるはず。
もちろん、業務効率も改善できるかもしれない。
さらに、この様な構想を実現し、仮に生産効率が5%改善したとすると、売上が数千万円向上し、そのまま利益も向上するだろうと試算していました。
この様な構想のもと、DXプロジェクトをスタートさせ、Power Platformを使った業務アプリ開発を進めることになりました。
タブレット端末対応の現場入力システムの開発
新しいシステムはPower Appsのキャンバスアプリで開発し、現場でタブレット端末からでも簡単に情報を入力できるように工夫しました。
自社独自の情報含め、次の様な情報を入力できるシステムです。
- 飼育日数
- 体重推移
- 飼料の種類や量
- 飼育観察情報
- 天候等の環境情報
開発期間は2か月ほど、現場の担当者と週ごとにレビューを行い、画面や入力内容の確認をしながら開発を進めました。
ローコード開発の一般的な進め方で、プロジェクトは問題なく進み、現場でのテスト導入まで終えることが出来ました。
しかしながら、導入後、数か月経っても本番の現場で利用されることはありませんでした。
経営層は反対していなかった
なぜ、システムは使われることが無かったのか?
ここで重要なポイントがあります。
経営層はこのプロジェクトに反対していませんでした。
むしろ逆に、前向きでした。
しかしながら、開発会議にはほとんど出席していませんでした。
開発は現場で進めてほしいという姿勢でした。
加えて、生産効率を高めるために、飼育条件や飼料の配合、環境条件など、様々な研究結果を確認しながら、試行錯誤や分析を進めるという姿勢に乏しい様子でした。
開発は現場に任せ、
システムは完成したものの、
生産効率に係る飼育については、データが蓄積されるまで時間がかかるため、従来と変わらず長年の経験と勘に頼って進めている状況でした。
これではDXは進みません。
現場での効率化の効果は限定的だった
現場の担当者はもともと次の作業を行っていました。
- 現場で作業を行い飼育状況を確認する。
- 事務所に戻る。
- 業務システムとExcelファイルに情報を入力する。
この状態が新しいシステムの導入で次の様に変わりました。
- 現場で作業を行い飼育状況を確認する。
- 現場で、もしくは事務所に戻って新システムに情報を入力する。
つまり、上記の通り、現場での効率化は、どこで情報を入力するかと、2つの仕組みに入力するか、1つの仕組みに入力するかの違いしかありません。
また、入力する情報も一日に数十件しかなく、効率化の効果は限定的でした。
一方で、例として一日に50件情報を入力するとして、一か月で約1,500件、一年で約18,000件の大量データが蓄積される見込みでした。
しかしながら、次の様な点が明確ではありませんでした。
- 誰が分析するのか
- どの様な視点で分析するのか
- 数か月間隔での飼育のA/Bテストの検討と実行計画
特に生産効率の向上を目指すためには、分析結果をもとに飼育のA/Bテストを繰り返し、数か月、数年に渡って計画的に生産を進める必要があるのですが、その検討と計画が不十分でした。
目標達成のための具体的な実行計画が不十分
今回のケースでは、例えば次のような、目標とそれを達成するための実行計画が十分に検討されていれば、違った結果になっていたと考えられます。
- 1年後の出荷重量を〇%改善する
- 出荷ロス率を〇%下げる
- A/Bテストを〇頭で〇か月間隔で実施する
- A/Bテストの飼育変数として〇〇と〇〇を変更して実施する
この様に経営目標と実行計画の数字を結び付けると、システムを利用する意味が理解でき、現場の目的意識を高めることが出来ます。
しかし、これらが曖昧なままだと、現場は従来の仕事のやり方を変更する理由を見いだせず、DXは行き詰ってしまいます。
安定企業ほどDXは進みにくい
冒頭で書いた通り、この会社の経営は安定していました。
大手の取引先との長期契約があり、売上は計画通りに立ちやすく、事業は順調です。
変革は急務ではありませんでした。
また、国内の一次産業としても、生産現場におけるデータ活用が遅れている領域で、効果を得るためには、数か月から数年にかけて、根気強く計画を実行していく必要があります。
しかしながら、例えば次のように、データ活用の効果がが大きい分野でもあります。
- 生産データとAIの予測による生産効率の向上
- 異常データの早期検知による生産ロスの低減
- 出荷タイミングの最適化による品質の向上と安定化
こうしたデータ活用の仕組みは、先に示した通り、数%の改善が売り上げや利益に対して大きな影響を与えます。
つまり、経営として取り組むべき課題であり、競争力そのものを強化する取り組みでもあります。
しかし、安定している企業ほど、将来を見据えた変革への取り組みが遅れ、DXを進めにくいという傾向があるようです。
DXはITではなく経営の問題
この経験から私たちは改めて学びました。
DXはITの問題ではなく、経営の問題です。
DXを推進するためには次の四つが必要です。
- 経営層が議論に参加する
- 経営目標のKPIと蓄積するデータを結びつける
- KPIを達成するための分析と現場での実行計画を設計する
- 現場だけでなく、経営層含め役割分担と責任を明確にする
これらをしっかりと組み立てて取り組むことで初めてDXはプロジェクトして進めることが出来ます。
とりあえずやってみるではなく、
計画立てて進めることが重要で、
問題はツールではなく取り組む姿勢にあります。
まとめ:DXの推進に行き詰まりを感じている方へ
繰り返しになりますが、DXはツールやシステムの問題ではありません。
Power Platformは、DXを推進するツールとして優れたプラットフォームですが、経営を変革する姿勢が無ければDXは進みません。
DXに取り組みたい
取り組もうと検討している
取り組んでいるけれど上手く進まない
など、DXの推進に行き詰まりを感じている方は、ぜひご相談ください。
私たちの失敗から得た経験が、きっと何等かのヒントになるはずです。
初回のご相談は無料です。
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