困っていない企業は、なぜDX推進に失敗するのか
― 私たちが見誤っていたこと ―
失敗事例から学ぶことは多くあります。
DXに関してもしかり。
「経営者のためのDX思考」初回から数回は、DX推進に関する私たちの失敗をいくつか正直にご紹介したいと思います。
第1回の1つ目は、ある卸販売会社での失敗事例です。
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その会社は、特定領域の電子部品を扱う卸販売を営んでいる会社でした。
大手のメーカーの販売代理店として長年取引を続け、地域内では高いシェアを持っています。
売上は安定しており、無借金経営。
取引先とも長年築いてきた信頼関係があり、
堅実で、強い会社です。
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月に数百枚の紙伝票の手作業処理
その会社では、毎月、数百枚の紙の伝票を手作業で処理していました。
担当者が一枚ずつ目で確認し、業務システムのデータと照らし合わせ、誤りがないかチェックをし、ファイルに綴じる。
その作業は、手慣れたもので、非常に正確で、丁寧に作業をされていました。
担当者は2名、毎月、月末に数日かけて照合作業を進め、長年、大きなトラブルなく回っていました。
システムの専門家の視点で見ると、紙文書に記載されている内容を読み取ってデジタル化するOCR機能を利用すれば効率化できる作業です。
ところが、利用している業務システムが古く、OCR機能を付け加えることが非常に困難なシステムになっていました。
その理由もあり、担当者は手作業を続けていました。
また、その作業以外にも、古い業務システムで対応できない処理を、Excelを利用して手作業で処理していました。
明らかに非効率で、手作業によるミスがいつ発生してもおかしくない状況でした。
加えて、経営目標を達成するためにIT環境を整備するという視点においても、現状の業務システムの状態は、この会社の成長の妨げになると考えられました。
そこで、私たちは、Power Platformを活用したローコードによる新しい業務システムの開発・導入を提案しました。
Power Platformを活用すれば、AI-OCR機能(AIによる紙文書の読み取り機能)を構築することで、紙の伝票チェックをシステムで自動処理することが出来ます。
また、読み取ったデータをデータベースに保存し、将来的には経営分析にも活用できる基盤を構築することが可能です。導入後に必要になった機能を柔軟に追加していくことも出来ます。
単なる効率化ではなく、5年後の経営目標の達成に向けた基盤整備プロジェクトとしての提案です。
業務フローを整理し、
削減できる工数を試算し、
補助金による資金調達も完了し、
プロジェクト開始の準備を整えることが出来ました。
経営計画として中期目標はあった
経営計画や経営目標の策定状況として、この会社には、向こう5年間の売上と利益の向上に関する中期目標がありました。
売上をどこまで伸ばすか。
利益率をどう改善するか。
これらの数値目標は明確でした。
しかしながら、その目標を達成するための具体的な施策や、IT活用に関する戦術は、十分に言語化されておらず、具体的な取り組みに落とし込まれていませんでした。
目標はある。
だが、そこに至る道筋が具体化されていない。
新しいシステムの検討も現場の担当部長が孤軍奮闘している様子でした。
「これは私の仕事です」
システム化に取り組む現場の意識としても、振り返ると問題があったように感じます。
紙伝票の確認を担当していた現場の方は、システム検討のミーティングに毎回参加されていましたが、
チェック作業自体を”仕事”として捉え、その作業を”単なる負担”とは捉えていない様子でした。
ミーティングでは積極的に建設的な発言をするものの、何となくその”作業”を”仕事”と捉えている様子。
それは、長年担ってきた“自分の仕事”として、
「このチェックは、紙伝票の処理の誤りを防ぐ重要な仕事なんです。」
何となく、その様な誇りを持っている様子でした。
Power Platformでシステム化するということは、効率化です。
しかし同時に、担当者の役割を再定義することでもあります。
効率化は、仕事の余裕時間を生み出します。
その生み出された時間で新たに何をするのか?どんな仕事をするのか?
効率化によって削減された時間は、給与の削減につながらないのか?
そんな心理的な抵抗感が担当者の意識下に生まれます。
担当部長含め、私たちは、その心理的な抵抗感に対して、しっかりとした目的意識を定義できていなかったのかもしれません。
最後の判断
プロジェクト開始の全ての準備が整い、経営層にGoサインを出していただくミーティングの場で、代表者は、思わぬ判断を下しました。
「確かに良い取り組みだと思う。でも、今すぐ困っているわけではない。」
会社は利益を出している。
無借金で安定している。
メーカーとの関係性も強い。
現場も何とか回っている。
今のやり方でも、目標に向けて数字は伸びている。
では、なぜ今、変える必要があるのか。
その問いに、担当部長含め、私たちは十分に答えられていなかったのかもしれません。
検討状況を十分に共有できていなかったのかもしれません。
私たちが見誤っていたこと
その後、何度か代表者とミーティングを重ねましたが、最終的な判断が覆ることはなく、プロジェクトは中止となりました。
なぜ、プロジェクトをスタートすることが出来なかったのでしょうか?
私たちは何を見誤っていたのでしょうか?
当時、私たちは、次の様な合理性を中心に検討を進めていました。
工数が削減できる
ミスが減る
将来の人手不足に備えられる
しかし、DXは合理性だけでは進めることが出来ません。
DXは、
経営の優先順位
投資に対する覚悟
中期目標と、それを実現する戦術としての位置づけ
現場担当者への新たな役割の設定と意識付け
という経営戦略と戦術、それに紐づく組織構造に関する取り組みです。
経営目標とDXによる戦術が紐づけされていなければ、組織内でDXの優先順位は上がりません。
検討したPower Platformは、DXの推進に役立つ、確かに強力なツールです。
しかしながら、組織全体での取り組む姿勢が整っていなければ、ツールは無力です。
困っていない企業は動かない
批判ではありませんが、
一般的に、安定している企業が、組織構造に関する取り組みに慎重になるのは合理的と考えることが出来ます。
安定している構造に変化を加えることは、大きな労力が必要となりますし、一時的に組織構造や役割分担が不安定になるリスクがあります。
しかし、
人口減少
人材不足
AIの進展
経営環境は、静かに、着実に変化してきています。
「今、目の前は困っていない」という状態は、いつまで続くのでしょうか。
変わらないという選択も、経営判断です。
ただし、その結果もまた、経営が引き受けることになります。
私たちが学んだこと
この経験から、私たちは検討の進め方を強化しました。
必ず検討の内容を経営の中期目標と関連付け、経営層の承認を経て検討を進めること。
加えて、次のことを説明したうえで、IT活用を経営戦術の一つとして位置づけること。
経営層が検討状況を必ずレビューすること
検討ミーティングに関連部門の責任者と現場担当者が必ず参加すること
経営目標に対するKPIと結びつけること
効率化によって生まれた時間に対して新たな役割を加えること
そこまで設計し、推進する。
DXは効率化ではありません。
経営に関する設計です。
まとめ:DXの推進に行き詰まりを感じている方へ
DXに取り組みたい
取り組もうと検討している
取り組んでいるけれど上手く進まない
など、DXの推進に行き詰まりを感じている方は、ぜひご相談ください。
私たちの失敗から得た経験が、きっと何等かのヒントになるはずです。
初回のご相談は無料です。
お気軽にご連絡ください。


