構造の問題は、現場から変えられないのか?

― ボトムアップでの構造変革へのチャレンジ ―


前回までの記事では、DXがうまく進まなかった三つの経験をご紹介しました。
それぞれ失敗の内容は違っていますが、突き詰めると原因は同じでした。

経営の優先順位が変わらない:第1回 経営者のためのDX思考 | DX推進失敗ケース1
意思決定の場に経営がいない:第2回経営者のためのDX思考|DX失敗ケース2 一次産業での失敗
評価される行動が変わらない:第3回 経営者のためのDX思考 | 公的機関のDXが進みにくい理由

つまり、どの事例も単なるIT導入の失敗ではなく、組織の構造を変えられなかったことが原因でした。

では、組織構造は、どうすれば変えられるのでしょうか?

一般的に、事業の内容や業務の流れに応じて組織構造は最適化され、設定された構造で事業を進める過程を通して、企業文化が形成されると捉えることが出来ます。
つまり、組織構造は企業文化の基となり、構造と文化が表裏一体となるため、文化を変えることが困難なように、構造を変えることも難しいと考えられます。
経営層が号令を出し、構造を変えようと試みても、企業文化を背景に様々な場所から抵抗が浮き彫りとなり、一朝一夕にはいきません。

ましてや、大きな組織を変えたり、現場から変えたりすることは非常に困難です。

では、構造は、どうすれば変えられるのでしょうか?
経営層からの号令でも困難な場合、現場の人間ができることは限られているのでしょうか?

必ずしも、そうではないと思います。
構造は一気には変わりませんが、小さな単位から動かせることがあります。

今回からの数回は、構造の変革に取り組んだ体験談をご紹介したいと思います。

まず一つ目の構造改革は、社内コミュニティの立ち上げに観る変革です。

業種ごとに分かれた営業組織


筆者がかつて所属していたIT関連企業では、営業組織が業種ごとに分かれていました。

製造業、流通業、金融機関、公共機関など、それぞれの担当業種部門に営業担当者がいて、自分の担当業界のお客様に対して提案活動を行っていました。

この組織設計自体は、とても合理的です。
業種によって課題も違えば、商談の進め方も違います。

例えば、製造業であれば、生産管理やサプライチェーンの課題が商談の中心になり、金融機関であれば、セキュリティやコンプライアンスが重視されます。公共機関であれば、調達手続きや住民サービスが重要になります。

業種ごとに担当部門を分け、専門性を持つことは、営業活動の質を高めるうえで重要なことです。

ただし、その一方で問題も生じます。

提案書も経験も各部門の中に閉じてしまっていた


営業担当者は、お客様への提案のために次の様な多くの資料を作ります。

製品紹介の資料
導入効果を説明する資料
業務課題と解決策を整理した提案書
投資対効果を示す資料

これらの資料は、かなりの時間をかけて作られます。
お客様へのヒアリング内容を踏まえ、社内の技術担当者とも相談しながら作り込んでいきます。

ところが、その資料は多くの場合、担当部門の中だけに留まっていました。

ある業種向けに作った提案書でも、実は別の業種でも活かせる部分があります。
業種固有の説明は変える必要がありますが、共通して使える考え方や構成は少なくありません。

例えば、次のような内容です。

・情報共有の仕組みを変える提案
・紙やExcel中心の業務を見直す提案
・クラウドを使って部門間連携を進める提案
・データを分析して意思決定を迅速化する提案

こうした内容は、業種を越えて応用できるものです。

しかし実際には、各部門で似たような資料をそれぞれ作っていました。
同じような課題に対して、別々の場所で似たような労力が繰り返されていたのです。

共有されていなかったのは資料だけではない

共有されていなかったのは、提案書だけではありませんでした。
提案活動の過程で得られる知見も、各部門の中に閉じていました。

例えば、

お客様がどの論点で悩んだのか?
どの説明が刺さり、どの説明では納得されなかったのか?
競合との比較で、どの点が評価されたのか?

こうした情報は、提案活動において非常に価値があります。

ある営業担当者が苦労して得た経験は、他の営業担当者にとっても大きなヒントになります。
それにも関わらず、その知見は部門を越えて共有されていませんでした。

これは、誰かが意地悪をして情報を隠していたわけではありません。
単に、共有する仕組みがなかったのです。

最初に行ったのは同じ問題意識を持つ人を集めることだった

この様な状況に対して、課題を感じている担当者は何人もいました。

しかしながら、組織の構造上、部門横断的に情報を共有するなどの役割がどこにも設定されていませんでした。

そこで筆者がまず行ったのは、同じ問題意識を持つ営業担当者に声をかけることでした。

部門を越えて提案書や提案活動の知見を共有できないか?
業種ごとに閉じている情報を、横につなぐ場を作れないか?
現場の営業担当者同士で、まず話し合ってみないか?

最初から大きな仕組みを作ろうとしたわけではありません。
まずは、課題を感じている人たちで集まり、何ができるかを考えるところから始めました。

集まったメンバーは、担当業種も所属部門も違っていました。
それでも、感じている課題はよく似ていました。

提案書を一から作るのは大変だ。
他部門の提案事例を見られれば助かる。
お客様から聞かれた論点を共有できれば、次の商談に活かせる。

現場の中には、すでにニーズがあったのです。

現場の合意を部門長の承認につなげる

現場のメンバーでミーティングを重ね、コミュニティの立ち上げと取り組みについて、現場レベルで共通認識を形成した後、次に行ったのは部門長への説明でした。

部門を越えたコミュニティを作りたい。
提案書や提案活動の知見を共有したい。
四半期に一度、営業担当者が集まる場を持ちたい。

そうした目的を、各部門の部門長に説明していきました。

ここで大事だったのは、単なる有志活動として終わらせないことでした。
非公式の集まりでは、忙しくなると自然に消滅してしまいます。

部門長の理解を得ることで、活動に正当性が生まれます。
営業担当者も、安心して参加しやすくなります。

その後、営業組織全体の会議体でも、コミュニティの立ち上げについて説明を行いました。
目的を共有し、正式に活動を進める了承を得ました。

この段階で、単なる思いつきの活動ではなく、社内の公式な取り組みに近い形になっていきました。

正に構造に変化の兆しが表れ始めました。

四半期に一度、百人規模の情報共有の場を開いた

各部門の部門長への説明後、正式にコミュニティの立ち上げが了承され、まず取り組んだことは、四半期に一度、情報共有のミーティングを開催することです。

参加者は、業種担当の営業担当者や関係者を含めて、およそ百人規模になりました。
時間は二時間から三時間程度で、各部門から事例や提案のポイントを共有してもらいました。

例えば、ある部門からは大手企業向けの提案事例が紹介されました。
別の部門からは、価格以外でお客様に評価された説明の仕方が共有されました。
また別の担当者からは、導入検討が止まった理由や、次回に向けた反省点も話されました。

成功事例だけではなく、うまくいかなかった話も共有されました。
むしろ、失敗の中にこそ、次の提案に活かせる学びがありました。

加えて、部門長や経営層をゲストとして招き、スピーチしてもらうことで、コミュニティ活動に対する経営層の認知を高め、組織構造の一部としてコミュニティを位置付けるよう活動していきました。

そして、このような場ができると、営業担当者同士の会話も少しずつ変わります。

あの資料を見せてもらえないか。
このお客様の論点は、別の業種でも使えそうだ。
次の提案で、その説明を参考にしたい。

部門を越えた情報の流れが、少しずつ生まれていきました。

情報共有を一過性で終わらせないために

ただし、ミーティングだけでは情報はその場の事として流れて消え去ってしまいます。
その場で良い話を聞いても、後から情報として探せなければ活用できません。

そこで、社内の情報共有基盤を使って、提案書や関連資料を共有するポータルサイトを作ることにしました。

サイト名を付け、資料の分類を考え、どのような情報を置くべきかをコミュニティの運営メンバーで検討しました。
立ち上げには半年ほどかかりました。

共有したかったのは、単なるファイル置き場ではありません。
営業担当者が次の提案を作るときに、自然に立ち寄れる知識の場所です。

例えば、次のような資料を置くことを考えました。

業種別の提案書
製品別の提案テンプレート
競合比較で使える資料
提案時によく出る質問と回答

こうした情報が一か所に集まれば、提案活動の質と効率は大きく変わります。

新しい営業担当者も、過去の提案を見ながら学ぶことができます。
ベテランの担当者も、自分とは違う業種の提案からヒントを得られます。

情報共有の場を作るだけでなく、知識が蓄積される仕組みを作る。
そして、蓄積された知識を活用し、その結果をまたミーティングの場で共有する。

そこまで進め、コミュニティ活動が日常化し、構造は確実に変わりました。

”構造を変える”とは”情報の流れを変えること”でもある

この経験から学んだことがあります。
構造を変えるというと、大きな組織改革や制度変更を想像しがちです。

しかし、実際にはもっと小さなことが変革の入り口なのです。

誰が誰と話すのか。
どの情報がどこに集まるのか。
どの知識を再利用できる形で残すのか。
情報や知識を公式に蓄積できているか。

一般的に情報は組織構造に沿って流れていきます。

つまり、情報の流れを変えることは、組織構造を変えることに直結するのです。

情報の価値を認知し、

部門ごとに閉じていた提案書を共有する。
担当者の経験を別の担当者に伝える。
個人の工夫を組織の知識として残す。

これだけでも、組織の働き方が変わり、構造が変わります。

ボトムアップだけではなく公式化が重要

この取り組みは、現場の問題意識から始まりました。
その意味では、ボトムアップの活動です。

ただし、ボトムアップだけで終わらせなかったことも重要でした。
部門長に説明し、営業組織全体の会議体で了承を得たことで、活動に継続性が生まれました。

現場の熱意だけに頼ると、活動は人に依存します。
忙しい時期になると後回しになり、担当者が異動すれば消えてしまうこともあります。

そもそも構造に変化は現れません。

だからこそ、非公式の問題意識を、公式な取り組みとして位置づけることが重要でした。

小さく始める
現場の共感を得る
上位者の理解を得る
仕組みとして残す

この順番が、構造を動かすうえでは大事だったのだと思います。

DXにも同じことが言える

この経験は、DXにもそのまま当てはまります。

DXが進まない会社では、情報が部門や担当者の中に閉じていることがよくあります。
営業情報は営業担当者の頭の中にあり、顧客対応の履歴は個人のメールボックスに残り、業務の工夫は担当者だけが知っている。

その状態でシステムだけを導入しても、業務は効率化されるかもしれませんが、組織はあまり変わりません。
まず必要なのは、情報の流れを変えることです。

情報を共有・蓄積し、活用する
活用した結果をさらに共有し蓄積する

その流れが設計されて初めて、DXは組織に根付きます。

構造は、小さな接続から変わり始める

今回ご紹介した社内コミュニティの立ち上げは、大きな制度改革ではありませんでした。
組織図を変えたわけでもなく、人事評価制度を変えたわけでもありません。

それでも、部門の壁を越えて情報が流れる場を作ったことで、組織の状況は変わりました。

構造は、常に上意下達で変わるわけではありません。
現場でも、ボトムアップでも、小さな接続を作ることで、変わり始めることがあります。

誰かと誰かをつなぐ。
情報が流れる場所を作る。
経験が再利用される仕組みを作る。
公式な活動として残していく。

DXも同じです。
最初から全社変革を目指す前に、例えば、まず情報の流れを一つ変える。
そこから、組織の構造は少しずつ動き始めるのだと思います。

今回は、社内コミュニティの立ち上げを例に、構造変化への取り組みをご紹介しました。
次回も構造の変化に取り組んだ例をもう一つご紹介したいと思います。

まとめ:DXの推進に行き詰まりを感じている方へ


繰り返しになりますが、DXはツールやシステムの問題ではありません。

経営や組織を変革する姿勢が無ければDXは進みません。

DXに取り組みたい
取り組もうと検討している
取り組んでいるけれど上手く進まない

など、DXの推進に行き詰まりを感じている方は、ぜひご相談ください。

私たちの経験が、きっと何等かのヒントになるはずです。

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