Excel研修で見えた支援機関のDXが進みにくい理由
― 公的機関におけるIT活用・DX推進の実情 ―
失敗事例ではありませんが、様々な組織のIT活用やDX推進の実情などからも学ぶことは多くあります。
「経営者のためのDX思考」の第3回、今回は、とある公的機関のIT活用・DX推進に関する実情について、なぜDXが進まないのか考えます。
考えるきっかけは、ある公的な支援機関向けに実施したExcel研修です。
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支援機関の職員向けにExcel研修を行った
以前、ある公的な支援機関で、職員向けのExcel研修を担当したことがあります。
参加していたのは、地域企業からの経営相談や各種支援を日常的に担当している職員の方々でした。
参加人数は二十名ほどで、普段から中小企業の相談窓口に立ち、現場の事情をよく知る、実務経験の長い担当者が中心です。
研修のテーマは、特別に高度なITスキルではありません。
Excelの基本的な機能を使って、データをきちんと整理し、そこから傾向を読み取るという内容です。
具体的には、次のような内容を実施しました。
- テーブル機能を使ったデータ整理
- ピボットテーブルによる集計
- ピボットグラフによるデータの可視化
- スライサーとタイムラインによる分析
これらは、Excelを活用している企業の業務の現場でも日常的に使える、ごく基本的な内容で、経営判断のための資料を作成するうえでも重要なテーマです。
研修で使ったデータの例
研修では、単なる機能説明ではなく、できるだけ実務に近い形で演習を行うために、架空のデータですが、企業支援の現場で実際にありそうなデータをExcel上に用意しました。
例えば、次のような項目を含む一覧表です。
- 企業名
- 業種
- 地域
- 従業員数
- 売上規模
- 利益
- 相談内容
- 支援回数
このデータをまずテーブル化し、さらにピボットテーブルを使って、業種ごと、地域ごと、従業員数ごと、売上規模や利益規模ごとの相談件数や支援傾向を集計していきました。
そのうえでグラフを作成し、どの様な企業からの相談が多いのかや、どの分野の相談に支援が集中しているのかが視覚的に分かるようにしました。
Excelの機能の中で利用する機能は基本的なものですが、データを分析し、意味のある情報として読み取るためには十分な内容です。
Excelの操作はすぐ理解された
研修を進めてみると、参加者の皆さんは操作をすぐに理解していました。
テーブル機能もピボットテーブルも、難しくて手が止まるという雰囲気はほとんどありませんでした。
一度やり方を説明すると、多くの方がその場で操作できるようになり、直ぐに自分で集計や絞り込みを進められる状態になっていました。
つまり、少なくともこの研修の場で感じたのは、「スキルが足りなくてExcelを使いこなせない。」ということは無いなという事です。
ところが、研修中の様子で、実際の業務で試してみようとか、実務で役に立ちそうだという反応はなく、単純に「研修の場で、研修を受け、操作しているだけ。」という雰囲気です。
また、「普段の業務では、ここまでExcelを使うことはほとんどない。」という話が出てきました。
「集計は、表形式で集計が出来れば十分で、ピボットテーブルやピボットグラフなどを利用する積極的な理由は無い。」そんな声が、複数の参加者から自然に出てきました。
実務では手作業の集計が多かった
実務でどのようにExcelを利用しているのか聞いてみると次の様な話でした。
例えば、企業支援の件数を月ごとに集計するような場面では、データそのものは、すでにExcelに入力されていて、それを集計するだけという事です。
具体的には、Excelの特定のセルに集計用に関数を入力し、月ごとの件数を集計しているという事で、業務ではその様な集計で十分という話でした。
つまり、ピボットテーブルを使えば数秒で完了する集計ですが、手作業で関数を入力しても数分で完了するため、効率化のためにピボットテーブルを利用することに対して積極的な理由が無いという状況でした。
なぜ業務でExcel分析が不要なのか?
なぜ、業務においてはExcelの簡単な集計だけで十分で、分析などする用途が無いのか?
その理由を丁寧に聞いていくと、いくつかの理由が見えてきました。
その主な理由は、業務範囲と評価基準の問題です。
公的な支援機関の業務は、制度としてかなり明確に定められており、担当者が担う仕事の範囲も、基本的にはその定められた範囲の中で行う事と業務マニュアルなどに整理されています。
例えば、公的支援機関の日常的な業務としては、次のようなものがあります。
- 補助事業の周知活動
- 補助金申請の支援
- 勉強会の企画、開催、運営
- 制度融資の相談対応
- 借入申請書類の作成支援
- 確定申告書の作成支援
また、こうした業務には、それぞれ実績指標が設定されており、担当者の仕事ぶりも、基本的にはその実績指標に沿って評価されます。
例えば、次のような指標です。
- 補助金申請支援件数
- 融資支援件数
- 勉強会開催回数
- 勉強会参加者数
つまり、業務の評価は、支援件数や実施回数のような分かりやすい数字で測られ、データを分析し、その内容に応じて業務を実施することなどは業務範囲に入っておらず、評価指標の中にも、ほとんど含まれていないという状況です。
Excelを使いこなす動機がない
例えば、相談企業のデータを分析して、業種ごとの課題を整理したり、支援の効果を数字で分析したりする。
この様な仕事の仕方は、支援の質を高めたり、効率的に周知や支援を行ったりという点で明らかに意味のある仕事への取り組み方です。
実際、どの業種で相談が増えているのか、どの様な支援の仕方が成果につながっているのかが分析できれば、次に何をすべきかを、もっと具体的に考えられるようになります。
ただし、その様な取り組みを行っても、業務の評価に直接反映されるわけではありません。
場合によっては、設定された業務の範囲を逸脱していると見られることもあるかもしれません。
つまり、現場の担当者にとっては、Excelを使いこなす積極的な動機が制度上ほとんど存在していないのです。
繰り返しになりますが、この状況は、担当者個人の能力の問題ではありません。
Excelを理解できる人は多くいますし、やろうと思えば分析できる人もいるはずですし、育つはずです。
けれども、制度がそれを求めていない。
そして、業務範囲がかなり明確に区切られているため、その範囲を超えた仕事を行う理由も生まれにくいのです。
構造が行動を決めている
この研修を通して、あらためて強く感じたことがあります。
人は組織の中で行動する場合、その中での役割や評価指標などに応じて行動を選択し、それが行動する動機付けとなります。
公的支援機関でExcelの活用や分析用途での利用が広がらない理由も、まさにそこにありました。
問題は、ITそのものではなく、制度と業務の設計にあるのです。
多くの支援機関では、企業のDX支援が重要だと言われています。
その方向性自体は、間違いなく正しいと思います。
しかしながら、支援する側の組織や業務の設計を観てみると、IT活用やデータ分析が、業務や評価の範囲として位置づけられていません。
その様な組織構造のままでは、DXを支援する側自身が、DXを推進出来ず、DXの本質を企業に対して語れず、結果的に支援先の企業のDXも進まないという状態に陥ってしまいます。
DXはIT導入ではなく構造の問題
DX推進の難しさは、ツールやスキルの問題だけではありません。
「ツールを活用しよう。」、「DXを推進しよう。」という行動の動機付けが必要です。
そのためには、組織設計を見直し、構造の変革に取り組むという姿勢が重要です。
これは支援機関のみならず、どのような組織や企業においても同様です。
ITツールを導入するだけでは、DXは定着しません。
人の行動は変わりません。
結果として組織も変わりません。
DXは、ITの問題ではなく、間違いなく組織の構造の問題です。
まとめ:DXの推進に行き詰まりを感じている方へ
繰り返しになりますが、DXはツールやシステムの問題ではありません。
経営や組織を変革する姿勢が無ければDXは進みません。
DXに取り組みたい
取り組もうと検討している
取り組んでいるけれど上手く進まない
など、DXの推進に行き詰まりを感じている方は、ぜひご相談ください。
私たちの失敗から得た経験が、きっと何等かのヒントになるはずです。
初回のご相談は無料です。
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